名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)677号 判決 1999年2月22日
原告
株式会社伊藤陸運
被告
三重県
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一一〇万一五六七円及びこれに対する平成八年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が所有し、訴外山下聡(以下「訴外山下」という。)が運転する普通貨物自動車が、被告が管理費用を負担する国道一六三号線(以下「本件道路」という。)から転落し、破損した事故(以下「本件事故」という。)について、原告が、被告に対し、国家賠償法三条一項、二条一項に基づいて損害賠償を請求したものである。
一 争いのない事実等(証拠を摘示した部分以外は、争いがない。)
1 原告は、運送業を営む株式会社である(弁論の全趣旨)。
2 被告は本件道路を国の機関委任事務として管理し、その費用を負担する者である。
3 本件事故の発生(乙三、八)
(一) 日時 平成八年一〇月一四日午後二時五分ころ
(二) 場所 津市大字殿村五八三番地先本件道路上(以下「本件事故現場」という。)
(三) 事故車両 普通貨物自動車(名古屋一二い七五〇五)(以下「原告車」という。)
右運転者 訴外山下
右所有者 原告
二 争点
1 本件事故の態様
(一) 原告の主張
原告車は、本件道路の西進車線を進行中、大型貨物自動車(以下「対向車」という。)が東進車線をその右側車輪が中央線上又は西進車線にはみ出すような状態で進行して来たことから、対向車との接触を避けようとして、本件道路に設置されている無名橋の東端から一六・七メートル東の地点において本件道路南側路肩に進入したが、その後、南側路肩が崩壊したことにより本件道路から転落した。
(二) 被告の主張
原告車は、訴外山下が本件道路の西進車線を進行するに際し進路前方を注視することを怠り対向車の発見が遅れ、対向車に対し警笛を鳴らすことや自車を減速、徐行させる等の回避措置を採ることができなかったために、本件道路の無名橋東端から一二・一メートル東の地点において南側路肩に進入した。そして、原告車は、訴外山下が南側路肩内でハンドルを右に切る等の転落防止措置も怠ったため、南側路肩内に被告が設置していた視線誘導標を踏み倒しつつ本件道路から南側道路外に転落した。したがって、本件事故は訴外山下の前方不注視、運転操作の誤り等により生じたものである。
2 本件道路における被告の設置管理の瑕疵の有無
(一) 原告の主張
本件事故現場における車道の幅員は五・三五メートル(北側路肩及び東進車線の幅員が二・六メートル、西進車線の幅員が二・七五メートル。)である。一方、原告車の車体本体の車幅にバックミラー等がはみだした部分の幅員を加えると原告車全体の車幅は二・九八メートルであるから、西進車線を進行する原告車が本件事故現場において対向車のような大型貨物自動車とすれ違う場合には、南側路肩に進入せざるを得ない。また、仮に原告車全体の車幅が被告の主張する二・六三メートルであったとしても、対向車はその右側車輪が中央線上又は西進車線にはみ出すような状態で進行して来たのであるから、原告車が余裕を持ってすれ違うためには南側路肩に進入せざるを得ない。そして、未舖装でぬかるんだ状態の南側路肩に自動車が進入した場合、自動車の車輪が土の中にめり込んで西進車線に戻ることは困難になる。
ところが、本件道路の管理に当たる被告は、軟弱な南側路肩を未舗装のまま放置し、危険標示や路肩注意等の標識を設置することを怠っていた。
したがって、被告の本件道路の設置管理には瑕疵がある。
(二) 被告の主張
道路の設置管理については、当該道路の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合考慮した上で、具体的個別的に判断すべきである。
本件事故現場における車道の幅員は五・八三メートル(北側路肩の幅員が〇・三八メートル、東進車線の幅員が二・五八メートル、西進車線の幅員が二・八七メートル。)であるのに対し、原告車の車両本体の車幅は二・三八メートルであり、運転席側(本件事故現場においては北側)のバックミラー部分の幅員を加えても最大で二・六三メートルであるから、原告車は本件事故現場において南側路肩に進入することなく西進車線を通行して対向車とすれ違うことが可能であった。
ところが、訴外山下は、あえて本件事故現場において南側路肩に進入して対向車とすれ違い、南側路肩内の視線誘導標を倒してそのまま一直線に道路外に進行しており、このような訴外山下の運転方法は、自動車が路肩にはみ出して通行することを禁止した車両制限令九条に違反する。
本件事故現場の事故直前の雨量は南側路肩の地盤を軟弱化させる程のものではなく、また、事故後現場に認められている南側路肩の沈下は原告車が南側路肩上を一直線に進行した際に原告車本体及び積載物の重量がかかったことにより生じたものであり、南側路肩は本件事故当時軟弱ではなかった。
また、本件事故現場付近においては本件事故以前に同種の事故は発生しておらず、本件事故前に被告の職員が行ったパトロールにおいても本件道路に何ら異常は発見されていない。
さらに、被告は南側路肩内に視線誘導標を設置していたのであるから、これに加えて南側路肩の舗装を行うことや危険標示、路肩注意等の標識を設置する義務はなく、被告の本件道路の設置管理には瑕疵はない。
3 損害額
(一) 原告の主張
原告は、本件事故により合計一一〇万一五六七円(原告車の修理代金一二万九二八五円、原告車のシート修理代金二二万二七八九円、レッカー及びクレーン車代金三〇万八〇一円、積荷商品損傷代二二万六六九二円、農地所有者に対する損害金支払分五万円、積荷商品の選別作業費一六万五〇〇〇円、事故により燃料が流出した損害七〇〇〇円)の損害を被った。
(二) 被告の認否
右主張は不知。
4 予備的に過失相殺の成否
第三争点に対する判断
一 争点1(本件事故の態様)について
1 まず、本件道路の幅員等につき判断する。
前記争いのない事実等及び証拠(甲一〇、一一、一三の1、2、一四、乙一、二、四、五の1ないし9、七の1ないし3、一一ないし一三、一四の1、2、一五、証人北田)によると以下の事実が認められる。
(一) 本件道路は、津市から大阪市に至る国道であり、本件事故現場付近においては三重県の平地部(津市の郊外)を通っている。
本件事故現場付近における本件道路の制限速度は時速四〇キロメートルである。
(二) 本件道路は、本件事故現場付近において東西に通じており、点線状の中央線によって区分される片側一車線の車道とその両側の路肩及び北側の歩道を有している。本件道路の表面は、草の生えた盛り土である南側路肩以外の部分はすべて舖装されている。
本件事故現場において、本件道路の北側の歩道と北側路肩はガードレールによって区分され、東進車線と北側路肩は車道外側線によって区分されているが、西進車線と南側路肩の間には車道外側線は存在せず、舗装部分と未舗装の草の生えた盛り土部分との境によって事実上区分されている。そして、南側路肩は途中からかまぼこ状に傾きながら同様に草の生えた盛り土の法面に続き、垂直距離で約一・二メートル(乙一三の横断図には<5>地点の右垂直距離として一・一〇メートルとの記載があるが、添付写真<19>に照らすと一・二〇メートルの誤記と認める。)ないし一・八五メートル下方に位置する空き地、田に至っている。
本件事故現場の西には、長さ三メートルの無名橋が存在している。そして、本件道路は、西進車線を進行する自動車が本件事故現場の手前に差し掛かったところでやや右側にカーブする状況にあるが、無名橋から約七八メートル東の地点において、晴天時には約五七〇メートル先まで道路前方を見渡すことができる。
(三) 本件道路の本件事故現場付近における道路台帳上の幅員は、無名橋の地点(整理番号一九六三)において、全体で六・三メートル(北側路肩の幅員は〇・五メートル、車道部分の幅員は五・五メートル、南側路肩の幅員は〇・三メートル。)である。また、無名橋から一・四メートル東の地点(整理番号一九六四)においては、右無名橋の地点と同様の幅員である。さらに、無名橋から一五・五メートル東の地点(整理番号一九六五)においては、全体で六・四メートル(北側路肩の幅員は〇・五メートル、車道部分の幅員は五・五メートル、南側路肩の幅員は〇・四メートル。)である。
そして、本件道路の本件事故現場付近における実際に計測した幅員は、無名橋の東端から約六・八メートル東の地点において、車道の幅員が五・六メートル(東進車線の幅員は二・七メートル、西進車線の幅員は二・九メートル。)である。また、無名橋の東端から一二・一メートル東の地点においては、全体で六・四三メートル(北側路肩の幅員は〇・三八メートル、東進車線の幅員は二・五八メートル、西進車線の幅員は二・八七メートル、南側路肩の幅員は〇・六メートル。)である。さらに、無名橋の東端から一六・七メートル東の地点においては、全体で六・四四メートル(北側路肩の幅員は〇・四三メートル、東進車線の幅員は二・五六メートル、西進車線の幅員は二・八五メートル、南側路肩の幅員は〇・六メートル。)である。
(四) 被告は、本件事故現場において、南側路肩内の、無名橋の東端から二・七メートル東かつ西進車線南端から〇・三メートル南の地点及び同一四・四メートル東かつ同〇・五四メートル南の地点にそれぞれ視線誘導標を設置していたが、本件事故後、間隔を狭めて新たな視線誘導標を増設し、その一部には路肩注意の警告表示も記載した。
以上の事実が認められる。
右認定の事実によると、本件道路の道路台帳上の幅員と実際に計測した幅員との間には差異があるが、証拠(証人北田)及び弁論の全趣旨によれば、道路台帳上の幅員は設計上のものであり実際の幅員と完全に一致するものではないことが認められる。そして、本件道路の瑕疵の有無を判断するについては実際に計測した幅員によるのが相当である。
なお、原告は、無名橋の東端から一六・七メートル東の地点における北側路肩及び車道の幅員は五・三五メートル(北側路肩及び東進車線の幅員が二・六メートル、西進車線の幅員が二・七五メートル。)である旨主張するが、その測定点、測定の方法等が明らかではなく、これを認めるに足りる証拠はない。
2 次に、本件事故の態様につき判断する。
前記争いのない事実等及び証拠(甲一、二、一〇ないし一二、一三の1、2、一四、乙三、四、五の1ないし9、六、八、九の1ないし11、一〇の1の1ないし3の各1、2、同4の1ないし3、一三、一五、証人山下(ただし、後記採用しない部分を除く。)、同北田、調査嘱託(三重県津警察署))によると、以下の事実が認められる。
(一) 訴外山下は、本件事故の約二か月前に被告の社員となって運転手として稼働しており、本件事故当日は、名古屋市の会社から津市の会社への荷物を積載した原告車を運転して本件道路の西進車線を津市街から三重県上野市方面に向かい走行していた。
原告車のバックミラーを除く車両本体の車幅は二・三八メートルであり、運転席側のバックミラーの部分が約〇・二四メートル、助手席側のバックミラーの部分が約〇・二八メートルはみ出していたので、原告車の全体の車幅は約二・九メートルであった。
原告車の車両重量は四四四〇キログラムであり、最大積載量は三二五〇キログラムである。原告車は、本件事故当日、約三五〇〇キログラムから四〇〇〇キログラムの重量の荷物を積載しており、原告車の総重量は約七九四〇キログラムから八四四〇キログラムあった。
本件事故現場付近の当日の天候は、早朝から雨であり、午前一一時ころ一時間に一五ミリメートルの雨が降った以外は、一時間に一ないし六ミリメートルの雨が降り続いていた。
(二) 訴外山下は、本件道路の西進車線を時速約三五キロメートルから四〇キロメートルの速度で進行していたが、本件事故現場付近の右にカーブする辺りの地点に差し掛かった際、原告車の約四〇メートルから五〇メートル先の東進車線上に、その右側車輪を中央線上又は西進車線に少しはみ出すような状態で、時速約五〇キロメートルから六〇キロメートルの速度で進行して来るように感じられる対向車を発見した。
そこで、訴外山下は、原告車が西進車線を直進したままでは対向車と衝突すると判断し、原告車のアクセルを離してから、左にハンドルを切って対向車とすれ違おうとした。右山下の運転操作により、原告車の左車輪は、別紙図面の無名橋の東端から一二・一メートル東の地点において南側路肩に進入した。
原告車と対向車とがすれ違った後、訴外山下は、原告車の左車輪を西進車線に戻そうとして右にハンドルを切った。しかし、訴外山下は対向車とのすれ違いの際に動揺し急制動の措置を採っておらず、原告車の速度はあまり減じていなかった。このため、訴外山下が原告車のハンドルを右に切った時点においては、南側路肩内の原告車の左車輪の位置と西進車線の水平差(垂直距離)が拡大しており、原告車は右に進路を戻すことができなかった。
そして、原告車は、別紙図面に「タイヤの軌跡」として表示されている点線の上を左車輪が通過する形で一直線に進行し、無名橋東端から二・七メートル東かつ西進車線南端から〇・三メートル南の地点に設置されていた南側路肩内部の視線誘導標を倒した後、無名橋東端の手前においてその左車輪が南側路肩から道路外に飛び出した。そのため、安定を失った原告車は本件道路南側下の田に転落した。
以上のとおり認められる。
これに対し、原告は、訴外山下が右にハンドルを切ったにもかかわらず原告車が右に向きを変えなかったのは本件道路の南側路肩がぬかるみ地盤が軟弱であったためである旨主張し、証拠(証人山下)中にはこれに沿う部分がある。また、証拠(乙一三)によれば、南側路肩の原告車の左車輪が通過した部分と西進車線の水平差(垂直距離)は、無名橋の東端より六メートル東の地点において五センチメートル、同三メートル東の地点において一五センチメートル、同〇・四五メートル東の地点において三五センチメートルであり、原告車の左車輪が南側路肩に進入してから道路外に逸脱するまで徐々に拡大していることも認められる。
しかし、前記認定のとおり、本件事故現場において南側路肩は法面に向かいかまぼこ状に傾いていたこと、原告車は、本件事故当日、最大積載量の三二五〇キログラムを超える約三五〇〇キログラムないし四〇〇〇キログラムの荷物を積載し総重量は約七九四〇キログラムないし八四四〇キログラムあったこと等の事情に照らすと、南側路肩の原告車の左車輪が通過した部分と西進車線との水平差(垂直距離)のすべてが原告車の左車輪の重みにより生じたものであるということはできないこと(原告車の左車輪が西進車線との境から道路外に向かうにつれかまぼこ状の傾きによる水平差は拡大する。)、また、原告車が路肩内を進行するにつれ原告車の重心は左前方に移り左前輪に原告車の総重量がかかる状態となり雨に濡れた南側路肩の圧縮の度合も大きくなったことが推認される。したがって、南側路肩の原告車の左車輪が通過した部分と西進車線との水平差の拡大は、これをもって直ちに南側路肩のぬかるみ状態を示すものとはいえず、原告車が相対的に急角度でかまぼこ状の路肩に進入し、このため右にハンドルを切って西進車線に戻ろうとしても戻れず、そのまま路肩から路外に転落した状況を示すものといえる。
そして、証拠(乙一〇の1ないし3の各1、2、同4の1ないし3、証人北田)によると、本件事故前の平成八年一〇月七日、同月八日、同月九日、同月一一日に被告の職員が本件道路をパトロールした時点においてはいずれも本件道路に特段異常はなかったことも認められ、また、前記認定のとおり事故当時の天候は雨であったが降雨量が特に多かったのは短時間にとどまり特に路肩が軟弱な状態となる可能性は少なかったことが認められ、これらの事実も前記認定を裏付けるものといえる。
したがって、証人山下の証言中前記認定に反する部分を採用することはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
二 争点2(本件道路における被告の設置管理の瑕疵の有無)について
1 前記認定によれば、本件は、訴外山下が対向車と本件事故現場においてすれ違おうとして、原告車の左車輪が南側路肩に進入した後も原告車を道路外に向かい一直線に進行させたことにより発生した事故であると認めることができる。そして、このような訴外山下の運転方法は、自動車がその車輪を路肩にはみだして走行することを禁止する車両制限令九条に違反するものである。以下、右認定の本件事故の態様に基づき、本件道路における被告の設置管理の瑕疵の有無について判断する。
2 一般に、自動車が車両制限令九条に違反する態様で道路を通行することは、道路の通常の用法に即しない行動であるということができる。しかし、当該道路の具体的状況等によっては、そのような通行をせざるを得ない場合があり、右態様で道路を通行したことによって事故が発生した場合であっても、その一事をもって道路の設置及び管理に瑕疵があったとは認められないと即断することはできない。
3 前記認定の事実によると、本件事故現場付近における西進車線の幅員は約二・八六メートルであり(前記のとおり、路肩に進入したと双方が主張する無名橋の東端から一二・一メートル東の地点での西進車線の幅員は二・八七メートル、同一六・七メートル東の地点でのそれは二・八五メートルである。)他方原告車の車幅は運転席側のバックミラーの幅を考慮しても二・六二メートルであるから、対向車の存在等を考慮しなければ、右のような車幅の原告車が本件道路を走行中南側路肩に進入して事故を起こすことは道路管理者の予測外の事態といえる。
本件にあって、原告は対向車が西進車線に進入していた旨を主張する。しかし、対向車がどの程度西進車線に進入していたかを客観的に裏付けるに足りる証拠はない。確かに証人山下は、当時対向車の右車輪が中央線上かわずかに西進車線にはみ出ていた状態にあった旨を供述するが(なお甲一〇中<4>写真)、これを裏付ける証拠はない。
ところで、道路運送車両の保安基準(昭和二六年七月二八日運輸省令第六七号)によると自動車のバックミラーは車両の最外側から二五〇ミリメートルを超えた位置に突出してはならないと規定されている(同令二条二項)。そうすると、前記本件道路幅員と原告車の車幅との関係からすると、仮に対向車が証人山下の供述する位置を当時走行していたとしても、対向車と原告車との間隔を考慮しなければそもそも原告車は南側路肩に一センチメートル程度進入すれば足りたといえ、また右間隔を考慮したとしても多少の進入で足りたものといえる。
次に、前記のとおり南側路肩は多少かまぼこ状にあったことが認められるが、証拠(乙一三)によると、本件事故現場付近で西進車線南端から六五センチメートル南の位置(したがってその一部は既に路外になる。)で本件道路との水平差は五センチメートルであったことが認められる(右証拠中横断図<4>に係る写真及び図面参照)。したがって原告車が衝突回避のため仮に六五センチメートルもの進入を余儀なくされたとしても(前記のとおり、衝突回避のためには多少の進入で足り、右幅までの進入を要するものとは認められない。)右程度の進入幅を維持した進路を採っていれば、かまぼこ状の路肩を走行するとはいえ、原告車は容易に西進車線に戻ることが可能であったものと認められる。
ところで前記のとおり西進車線を走行する車両にとって本件道路は見通しがよく、無名橋から約七八メートル東の地点において約五七〇メートル先まで道路前方を見渡すことができたことが認められる。もっとも本件にあっては、当時雨天であったことや交通量等も考慮する必要があるが、これらを考慮しても訴外山下の前方の視界は十分であったということができる。したがって、訴外山下としては、対向車を含む東進車線の進行車両の動静に注意し、対向車が仮にその証言するような位置を走行していたとしてもこれをその証言するような四〇メートルから五〇メートル先の位置ではなくより早期に発見し、また、衝突を回避するため南側路肩に進入せざるを得ないとしても(前記のとおり、衝突回避のためには多少の進入で足りるものと認められる。)、減速しながらより緩やかな角度で進入し、すれ違い終了後は直ちに西進車線に戻る動作をすることが十分可能であったものと認められる。
そうすると、本件事故は結局右のような義務を怠った訴外山下の過失に基づくものと認めることができ、このような運転方法は道路の設置管理者側の予測の範囲を超えるもので本件道路の通常の用法を逸脱したものといえ、したがって本件につき道路の設置管理の瑕疵を認めることはできない。
三 よって、原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 北澤章功 榊原信次 中辻雄一朗)
別紙